海列車は、ずっとずっと昔に乗った列車とは大違いだ。
あの地上の列車独特のリズムではないし、ずっと潮の香りがしていて鼻が麻痺しそう。いや、もうしてるのかも。
窓の向こうはいつも同じ風景。海は嫌いじゃないし、よく観たら魚が飛んだするのも見える。たまに海王類の猛獣ショーだって見える(近くて怖いけど)。
それに、今日はいつもと違ってジャブラと一緒の買い物だ。
ジャブラも仕事じゃないから、服は普通の私服で、わたしも政府支給の給仕服ではなくて、きちんとした服。ワンピース、という時点で、給仕服とそう変わらないのだけれど。
窓の外から目を離すと、ジャブラと目が合った。少し驚いた。彼はすぐに寝そうなタイプに見えたから。とりあえず、微笑む。
「ありがとう、ジャブラ。お買い物に付き合ってくれて」
「別にいいって事よ。たまには俺も羽を伸ばしてぇんだ」
座ったまま伸びをして、だらしなく座り直す。わたしはその姿に苦笑する。彼はどこに行っても彼のままだ。それは別にいい事なのだけれど、偉そうな大柄な男をちらちらと見る周りの一般人の目も気にしてほしい。
「そうね、いつもおつかれさま」
会話が途切れる。海列車の蒸気の音と一般人の楽しそうな声が耳に響く。心地よい。とても静かなあそことは大違い。CP9のメンバーに会わなかったら、の話だけど。(けれど、最近はみんな任務任務でちっとも顔を合わせてなかった)(わたしにはそれが、少しさみしい)
「そういえば」
窓の外を見たまま、ぽつり、と思い出したようにジャブラが喋った。
「初めてだな、と海列車で出かけんの」
「・・・そうだっけ?」
「ぎゃははは、お前はバカか!俺が言うんだから間違いねえよ」
偉そうなスタンスは崩さないまま。
どこからでてくるの、その自信。けれど、それでこそジャブラなのだなあ、と思って、わたしはその言葉を胸の内にとどめて、笑うだけにしておいた。彼は最近少しイライラしているようにも見えたから、誘ったときは、ついてきてくれるかどうかわからなくて、少し不安だった。(けど結局優しいのだ、彼は)
イライラの原因があの4人が揃って5年なんて長い任務についたからなのだと推測すると、少し嬉しかった。なんだかんだ言って、わたしたちはその辺のファミリーと同じなのだと思えた。(そこにわたしが入っているのかどうか)(いや、考えないでおこう)
「それで、どこ行くんだ?プッチか、セント・ポプラか、サン・ファルドか」
「ウォーターセブン」
「は?」
「冗談よ」
「・・・笑えねえ」
苦虫を潰したような顔をして、ジャブラはそれ以来黙ってしまった。
ウォーターセブンには今現在あの4人が任務に就いていて、それぞれ楽しくやってるんじゃないかと思われる。カリファもカクもルッチさんも不満を漏らしていたけれど(ブルーノはいつも通り大人にそれを受け止めていたが、少しばかり戸惑っていたようにも見えた)、今頃じゃあの街に浸っていると思う。彼らが任務に就いて、もう1年がたったのだから。彼らだって、わたしと同じだ、子供にもなれない大人にもなれない。
でも彼らは確かにCP9で、幼い頃から正義を背負っているのだ。本来の意味を忘れてはいないだろう。
「プッチ」
「は?」
「プッチに行くのよ」
ほんとはウォーターセブンに立ち寄って、みんなを驚かせたかったんだけど。
ああ、もう少しでウォーターセブン。美しい街だという事が、遠目でも解る。あの大きな噴水の近くへ行ってみたい。噂のヤガラとやらを見てみたい。彼らの殺し屋ではない姿を見てみたい。(船大工に、美人秘書に、酒場のマスター。どんな風なんだろう。想像もつかない!)(そういえば、カクは不満を漏らしながらも、少し嬉しそうだった気がする。ああ、そうだ。彼の部屋にはいくつかのボトルシップがあったっけ。)
「」
「なあに」
不意にジャブラに呼ばれて、わたしは窓から目を離しながら返事をした。わたしはジャブラを見たのに、彼は目を窓の外に向けたままで、腕を組んでいた。
「お前が心配しなくたって、あいつらは大丈夫だろうが」
不本意だったらしく、少し躊躇うような口調だった。そう言った後、彼は後悔しているようにも見えた。
「・・・ジャブラの口からそんな言葉が出るなんて思わなかった」
「心配してやってんだろうが」
「うん、わかってる(ジャブラは優しいから)」
「CP9はあの化け猫どもばっかじゃねぇよ」
「そうね」
「・・・笑うんじゃねえ、」
「そうね」
その彼の様子がなぜだかルッチさんを思い出させて、わたしは余計笑ってしまった。(そしたら小突かれてしまった)
彼のイライラは、少し取れたように思えた。
まもなく水の都ウォーター・セブン
ブルーステーション、ブルーステーション、お忘れ物のないようーーーー
給仕と不器用
(06.01.25)