シュンシュンと聞こえるやかんの音。
外は昨日の夜からしんしんと降り続けている雪。
オイルヒーターもしっかりつけて、こたつに入って、こくりとココアをひとくち。
「はぁ〜・・・。ぬくぬく。冬ってサイコー」
これぞ冬の過ごし方。ああ、褞袍が欲しい。
明日から仕事なんて!行きたくない、すごく行きたくない。どうせみんな、雪ではしゃいで滑って捻挫したとか、悪くて靱帯損傷とか(もっと悪いときは骨折とか)、手がかじかんで木材を足に落っことしたんだよ、悪いなあ見てくれよ、先生!とかさ、餅を詰まらせたとかさ、とにかくどーでもいい事で診療所に来て、ぬくぬくしてわたしの診療所自慢の可愛いナースと喋ってかえっていくんだ。
おかげで忙しいこっちの身にもなってみろ!
あー、それにしてもココアサイコー。
ガチャガチャという鍵の音がして、あ?おっかしいな、鍵かけたよなあ?という自問自答の声が聞こえて、もう一度ガチャン、と鍵を開ける音。ばたん、という音を立ててこの部屋の主が入ってきた。
彼が入ってきたと同時に外の冷気まで入ってきて、それの所為でわたしは身震いした。
「・・・なにしてんだ、
「おかえんなさい、パウリー」
「おう、ただいま・・・じゃねえよ、なにやってんだ、って聞いてンだよ」
彼はいそいそとショートブーツを脱ぎ散らかして、手に抱えていた茶色い紙袋をキッチンの机において、わたしが今のところ占領しているこたつに入ってきた。
「ぬくぬくタイム」
「・・・自分の家でやってこいよ」
あー、さむ。なんて、小さな不平を漏らしながら、彼は少しでも暖をとろうとして、子供のように小さくなった。
「ココア切らしてて。突撃となりのキッチン」
「それくらい買いに行け」
「外は寒いでしょ!」
「威張って言うんじゃねェ!」
「あ、ちょっ、パウリー、足触んないで、冷たい!」
こたつの中で冷えに冷えきったパウリーの足が今までこたつで暖まっていたわたしの足が当たったせいで、わたしは唇を尖らせ文句を言い放った。
けれど文句を言った所為か、パウリーの頬がピクリと動いたような気がする。
やばいぞ、これは!下手したら追い出される!
「・・・ココアでも、飲む?」
「俺ン家のだしな」
じとり、と睨まれて、それがさっさと煎れてこいとの暗黙の命令の合図。
「そ、そうですよね。いますぐ持ってきまーす・・・」
いそいそとわたしはこたつから出る。さようなら、ぬくもりの聖地。さようなら、わたしの暖かいココア!
何も敷いていないフローリングの床はまだ暖まってないらしくて、シンと冷たかった。こたつで少し足が汗をかいた所為か、余計冷たく感じられる。靴下でも履いていればまた違ったのかもしれない。(めんどくさいのだ、靴下なんて!)
彼が先ほどおいた茶色の紙袋からごろごろと中身の食材が転がり出していて、机の上に広がっていた。3日分くらいあるんじゃないか、これは。こんなにあるのなら、夕飯食べさせてくれないかな。
「ねえ、パウリー、ゆう」
「夕飯は自分の家に行けよ」
「まだ言ってなかったのに!」
「お前の考えてる事なんざ、お見通しだ」
その口調から、彼がしてやったり、と笑っていることがわかって、少し悔しかった。悔しい。ああもう、このココア失敗してやろうか!
「パウリーがパウリーらしくない!」
「言ってろ」
「くそ・・・」
それでもミルクパンの中のココアは着々と完成へと近づいて行く。
・・・ほら、もうできあがり。パウリーが好んで使うマグカップを食器籠から出して、(コーヒーばっかり飲んでる所為だ、茶渋が底に張り付いている)そこへできたての、暖かい、わたし特製のココアを注いで行く。
暖かい湯気、暖かみのあるとろりとした赤茶色。ミルクの所為か、たまに白とのマーブルができる。ああ、美味しそう!けれどこれが、わたしの口に運ばれる事は無いのだ。
こたつでぬくぬくとしているあの大きな背中が憎い。(普段着で、いつもの1がないから、少し違和感がある)
「どーぞ!」
「おう、ありがとよ」
彼はそう言って受け取るけれども、なかなか飲み出す気配がない。わたしは少しぬるくなったココアをすする。
「・・・毒なんて入ってないわよ?」
「いや、別にそんな心配はしてねぇよ。・・・ちょっと待ってろ」
そう言って彼は惜しみなくこたつから出て行って、キッチンの方へ向かった。(それなら、最初から自分で煎れればいいのに)
何かを探しているのかごそごそと何か取り出している音がして(ついでに何か言っている声もして)(どこに入れたっけな、とか、そういうのだ)、結局そんなに経たないうちに茶色の紙袋を持って戻ってきた。
わたしはココアを飲み終えてしまった。
「なあに、それ」
「あァ、こうすんだよ」
パウリーはごそごそと袋に手をつっこんで、白くてふわふわなそれ・・・マシュマロ!それをココアに浮かべた。
ぷかぷかと可愛らしく浮かぶそれ。無骨な指に包まれるマグカップの中で、それは、次第にとろりと溶け出して、おいしそう・・・。
パウリーの口に運ばれて、飲まれるココア。ずーっとマグカップを見ていた所為で、口にも、首の太さにも、飲むたびに動く喉仏にも、眼がいってしまった。(そういうところを見ると、ああ、この人は男なんだなと思う)(そしてその部分に、不覚にもときめいてしまうのだ)
「・・・あんまりこっち見んな」
「なんで?」
「飲んでる所をじろじろ見られて、気にしねェやつなんざいねェだろう?」
「まあ、確かに。それにしても、マシュマロ入れるなんて、よく思いついたわね」
「あー・・・」
パウリーは言葉を濁しただけで、なぜ入れたかは話す気が無いようだ。けれど、そうされるほど、気になるってものが人間の性だろう!(いや、女の性かもしれない)
「どうしたの」
「・・・・・・昔の彼女がやってたンだよ、悪ィか」
悪い。すこぶる悪い。いや、悪くないけど、わたしにとっては悪い。いや、美味しそうなんだからいいんだけど。(どっちだ!)ときめいた瞬間に、そんな話をされてしまうなんて、困る。
「癖になっちまったんだよ、これにマシュマロ入れんの」
「ふうん」
それ以外にどう言葉を返せというんだ。ちょっと懐かしそうなそんな眼で、ココアを見るな。わたしが入れたココアに、昔の女の思い出を浮かべるな。
「・・・気に入らない」
「なにが?」
「わたしは、パウリーがすきなのになあ」
「え、あ?」
「・・・今わたしなんつった?」
思った事を言ったような気がする!(どうしよう、これは気まずい)
「き、聞くんじゃねえ、ハレンチが!」
ああ、言ってしまったんだなあ、どうしよう、言うつもりなんて全然なかったのに。(パウリーが昔の彼女の事なんて話すから!)
「ま、ま、ココアでも飲みながら考えてよ」






わたしいま、死にそうなくらい恥ずかしいの、わかってる?







名前変換がひとつだけ・・・!orzぐだぐだもいいところ!企画夢なのに、申し訳ありません・・・!
(07.02.15)