最近見ていなかった扉。どれだけ見ていなかったのだろうか、などと自問自答する前に、ルッチはその扉に手をかけてそのノブを回した。
むわ、とする煙の匂い。煙草のものとは少し違う、甘ったるいフレーバー。海の近いエニエス・ロビーでは湿気が高い。その所為か、それが身体にまとわりつくような気がする。
原因はすぐにわかった。(というより、すぐに目についた)大きなクッションをいくつも重ねて、そこに優雅にもたれかかって、ぷかぷかと水煙草を吸っている、の所為だった。
――――ああ、頭が重い。
「お前・・・」
「おかえりなさい、ルッチ」
「・・・何をやっている?」
言いながら、ルッチはへと近づいて行った。窓も重たいカーテンをかけて締め切り、間接照明であるランプしかつけていない。ああ、まるで、夜の中、のような。(退廃的だ)
「おかえりなさい、と言ったら、返す言葉は『ただいま』よ」
ぷかあ、とまた彼女の口から煙が出る。普通の煙草のように苦い訳ではない。甘い、果実の匂い。いかにもが好きそうな繊細で美しいアラベスクが描かれている水煙草のガラス瓶の中身は、大分減っていた。
「・・・ただいま」
「最初からそう言えばいいのに。ルッチは昔から素直じゃなかったね」
「・・・」
(頭が重たい)どうして女っていう生き物はこんなにくだらない、どうでもいいことばかり覚えているのだろうか。忘れたいようなことばかり覚えているから、頭が痛い。
「吸う?」
そういって差し出された水煙草。の手からそれを取りあげて、放る。あ、というの間抜けた声も、いつも気怠げな目が少し開いたのも、気にする事は無い。
「それよりお前がいい」
「キザねぇ、ルッチ。それでどれだけの女を落としたの?」
くすくすと面白そうには笑う。可愛げの無い女。けれどこれが、彼女なりの照れ隠しなのだと知っているのは、きっと俺ぐらいだろう。それが少し優越感を感じさせる、口角が上がる。
「お前にしかこんな言葉言わない」
手に入れたいから、そうでもなければ、誰がこんな甘い言葉。
「・・・ほんとルッチは」
その言葉の先は塞いだ。甘い匂い、ゆるやかに堕ちていくような匂い。いつもより甘いのは、水煙草の所為。
「ルッチ」
気怠げに重たい瞼をあげて、見たその先にはいない。代わりに立っていたのはカリファだった。任務でもないのに黒の服。理由は解っている。
主人が居なくなったこの部屋は、随分と寂しい場所となった。水煙草の瓶には薄く埃が積もり、常に心地よい場所は、懐古する場所となった。(そんなもの、無駄だとわかっている。けれど、)
「まだ、そこにいたの?」
「・・・」
「・・・あと10分で来て」
「ああ」
自分の誕生日が、彼女の命日とはなんて皮肉な。(これは罰だろうか)(いや、神などいない)
別にが死んだからとて、変わるものはないだろう。相変わらずCP9としての仕事はあり、相変わらず人を殺すだろう。
NO COLOR
だが 血に色がついていない世界で殺しをしても、面白くない。
(もっと幸せな話にするはずが!)(6/2には間に合わなかった・・・)
(07.06.23)