「お前が新しい給仕か」
「なんだ、また随分チビだな」
「仲良くしましょうね」

CP9たちが他にも口々に言うが、はその広い場所にただただ呆然としてしまう。
今日からこの人達(そうやって他人行儀になるほど、年は離れていないのだけど)をひとりで世話するなんて―ーーーー無理だ。途方にくれる。



そうして私は、おずおずと よろしくお願いします、と言った。


























ーーーーーー古い記憶だ。そして夢である。

私はもそもそと、天蓋付きベッド(給仕にこんな豪華なベッドを与えていいのかな。しかも一人部屋)から這い出るように、ぐだぐだと出た。私は前に垂れてきた自分の無駄に長い髪の毛をかきあげる。寝間着から、黒を基調にしたワンピース、白いエプロンに急いで着替える。顔を素早く洗って、長い髪を三つ編みに編む。不夜島というだけ、ここの朝は早いのだ。たまに夜はあるのかと疑いたくなる。
顔を洗い、パチパチと瞬きをする。

よし。



最初にやるべき事はやはり朝食。私が作るんじゃなくて、コックが作ったものを受け取りカートに乗せて、私が持っていくのだ。
それこそ普通の給仕がやればいいのに。なんの為に私が居るのか時々解らない。
いつものように、厨房から受け取ってきて、専用の(他の部屋と同様、ものすごく広い)食堂に並べていく。ルッチさんは低血圧だから、めったにここでは食べない、というのをここ数年で学んだ。カリファも少し前から次の任務の為の捜査資料に追われているから、ここで食べられない。フクロウとクマドリはただいま任務中。
よって本日ここで食べるのは。

「おはよう、。今日も早いね」
「おはよう、ブルーノ。ごめんなさい、朝食はまだなの。もう少し待っていて」
気の良さそうな表情で、一番にここに来るのは決まって彼だった。早すぎて、私の準備が追いつかない。
2、3個の焼きたてのパンを座る場所の前に置いていって、次はお皿にスクランブルエッグとサラダと、ジューシーなカリカリベーコン。
美味しそうな匂いがふわり、と漂う。暖かい朝の始まりだ。個々が強い彼らも朝の飲み物はほとんど同じで、やっぱりコーヒー。けれど、好みがあって、これがまたなかなか揃わない。
例えば、ルッチさんは濃いブラック、カリファはミルク多めのカフェオレ、カクは濃いけど砂糖2杯、ブルーノは濃くも薄くもない曖昧なブラック、たまにミルク入り。そしてスパンダム長官は熱くないコーヒー、などなど。
「手伝おうか?」
コーヒーを煎れていると、彼がふと言ってくれた。とても嬉しい。
「ありがたいけど、私の仕事を奪うつもりなの?」
「へへへ・・・こりゃ失礼」
私もその笑顔につられて、微笑んでしまう。

「なんじゃ、まだおったんか・・・」

音も無く入ってきた人。不躾な言葉。1年のうちに何度も聞く言葉。
CP9の中で一番の年下のくせに妙に古めかしい言葉を使う彼。カク。
「わしはお前が嫌いじゃ」
だから早く出て行け、と言いたいのか。
それで彼が今とても苛ついているのがわかった。彼は苛つくと私にあたる。物にあたる。思春期、ってやつだ。私を嫌っているのは、まあ、いつもだけど。そういえば、カクは昨日任務から帰ってきたばかりだった。その時に何かあったのだろう。私はそういう事はわからないけど。
ここは適度にあしらっておくのが一番適策だ。

「そう?」

「・・・出て行け」
「うん。でも、仕事をしてから」
「今すぐ!」
彼はあまり感情をむき出しになんてしないのだが、苛ついているとすぐに声を荒げる。私が居ると、彼はすぐこうなるみたいだ。よそ者は受け付けないんだろうか。よそ者、という程、私はここに来て間もないと言うわけでもないのに。
慣れてしまえばそうでもないが、客観的な外の世界から見たら、閉鎖された環境、と言えば確かにここはそうだから、他人を受け付けなくなってしまうのも仕方が無い事かもしれない。その上、カクは一番年齢が低い。きっとCP9のメンバーも無意識のうちに甘やかしてしまった所だってあったんだろう。

・・・それにしたって、そんなに怒らなくても。この中で私より年齢が低いのは彼だけだから、なんとなく、私は彼が怒ってもそんなに怖くない。(そりゃ、最初は怖かったけど)


「うん、もう少ししたら」
「この、」
「カク、いい加減にするんだ。にあたるんじゃない」
「・・・・・ブルーノには関係ないわい」
制止しようとしたブルーノを睨みつけ、そう言ったっきり、カクはむすっとした顔つきで、まるでどこかのお偉い様のご子息の様に態度でかく椅子に座った。そのすらり、とした腕と足を不機嫌そうに組みながら。
「・・・おお、揃ってんなァ」
大あくびをして、ぽりぽりと腹を掻きながら(その姿はまるでオヤジだ)(私は素敵だと思うが)ジャブラが食堂にやってきた。これで今日、ここで食べる人達が揃った。
「おはよう、ジャブラ」
「おう、。美味そう匂いだな」
「カリカリベーコンなんて、とても美味しそうじゃない?ジャブラはコーヒー?」
「おォ、頼む」
短く言って、彼は自分に与えられた席へと座る。
毎回毎回同じ場所にきちんと律儀に座る彼らを見て、私は少しおかしかった。少し大きめのロングテーブルにきちんと向き合うように座って朝食を摂る。これがあのCP9の一面だなんて、誰が知り得ようか?


「はい」


私は少し微笑んで答える。

私は、この政府の中枢の中でもっとも人間らしいここが好きだ。



、いいよ。後は俺がやるから、お前は長官達に朝食を持っていってくれ。みんな待ちくたびれちまうよ」
「ありがとう、ブルーノ。それじゃあ、ここをよろしく」
「あいよ」
ブルーノの優しい申し出に甘えて、私はカートに乗せた朝食を持っていこうとする。けれど。

「待て」

冷たい、最近少しだけ低くなったその声に静止される。私はカートを引くのを止め、振り返る。
「なに?」
「・・・・・・・なんでもないわい」

やはりむすっとした声で、カクはまた黙り込んだ。
私は呼び止められた事を少し疑問に思ったが、たいした事ではないと、さほど気にもせずに食堂から出た。





パタン、と扉が締まり、がもう行ってしまった事がわかると、突然ジャブラは豪快に笑い出した。
「ギャハハハ!まるでガキだな、カク!」
が置いていったコーヒーをひと飲みしてカクを野次る。カクはベーコンを食べようとした手を止め、睨みつけた。
「・・・なにがじゃ」
「何がって・・・なァ?ブルーノ」
ニヤニヤと笑ってジャブラは言う。
「俺にふるなよ」
まったく、と少し咎めながらもブルーノも笑う。それがカクにはおもしろくなくて。



「だから、なにがじゃ!」
苛々は頂点に。


「「好きな子ほど苛めたくなる」」




カクは瞳孔が開きそうな瞳で黙れ、と大声で叫んで、ブルーノにはフォークをジャブラにはナイフをダーツの要領で投げつけた。
















(06.06.06)