は気付かれないようにだがわざとらしく、ためいきをついた。
悪魔の実って、こんな所にまで影響するのだろうか?
答えは否だろう、きっと。ただ単にこの男の寝起きが悪いだけだ。この不夜島で、しかも外が五月蝿いエニエス・ロビーで、よくここまで眠れるなあ、と胸中では気付かれないように思う。
(なんで心の中で思っただけで、こんなにビクビクするんだろう、私・・・)
はあ、ともう一度ため息をついて、は窓際の鳥籠に近づく。クルックー、と中の鳩が早く、と急かすように鳴く。
「おはよう、ハットリ。ご主人はまだお眠りだね」
「ポッポー」
同意しているのかしていないのか、それとも早く外へ飛び立ちたいのか。どちらでもあって、どちらでもないんだろう。人間の様に複雑で、賢い鳩だ、ハットリは。は苦笑して籠をガチャガチャと開ける。鍵も何もかかっていないそれは、簡単に開いた。
「お行き、ハットリ」
ポッポー、と一鳴きして、ネクタイを締めた生意気で賢く複雑な彼(いや、彼女?)は海が見える外へと飛び出していった。
あおいそら しろいとり きらめくたいよう。とても鮮やかな色と美しい光景に、は頬を緩めた。
けれど、これからルッチを起こさなくてはならないと思うと気がめいる。例え今日が彼の大切な日だとしても。
無駄に広いベッド、潔癖な白いシーツ、そこに横たわる大きな人。
顔を覗き込むと、別段眉間に皺が寄っているとか、目がつり上がっているとか、そういうわけではないのに、なんとなく怖い。普段のイメージなのか、寝る姿まで完璧に見える。まるで彫刻。
年相応に、もう少し可愛げが合ったっていいのに、隙がない人。
「起きて、ルッチさん」
ねえ、とはルッチを軽く揺さぶる。すると彼は少しだけ眉間に皺を寄せて、薄らと眩しそうに目を開け始める。
「・・・・・・・か」
「そうです、です。起きてください、ルッチさん」
が少し声を大きくして言っても、ルッチは言葉を発さない。起きる気配もない。けれど、その目は五月蝿い、わかっている、と言いたげだった。
はすう、と息を吸って、次はもっと大きな声で。
「朝食ですよ!」
「五月蝿い」
「え、」
その言葉と同時にぐい、と腕を引っ張られる。そのままはルッチのベッドへ。中へは迎えられなかったので、奇妙な体勢のままはルッチに覆いかぶさるようになった。
「いい加減にしてください、ルッチさん。朝食冷めますよ、コーヒー温くなっちゃいますよ」
「・・・」
ルッチはの言葉に耳を貸さず、開いた方の手でしきりにの綺麗に三つ編みされた髪を弄んでいた。
(だからルッチさんを起こすのって嫌なんだ)
「そんな事ばっかりしていると、次からは嵐脚で起こしますよ」
「・・・それは止めろ」
「じゃあ、離してください。ほら、ちゃんと朝食食べて!」
が語調を強めて言うと、ルッチは渋々との細い腕と髪から手を離す。もルッチの上から退く。ああ、もう、腰が痛かった!と文句をつけて。
それからは何事も無かったかの様に、ベッドより離れた場所にある机に朝食を置いていく。それらは、無駄な時間を食ってしまった所為で持ってきた時より少し冷めてしまっている。が、美味しそうなのは変わらない。
渋々とルッチはベッドから出て椅子につく。そして、もう冷めてしまったコーヒーに手を伸ばす。
「温いな」
「ルッチさんの自業自得」
こう切り返されてしまったら、ルッチには何も言えない。事実なのだから。
すぐにが出て行くかと思ったら、今日はなかなか出て行かない。それに、自分のエプロンのポケットを探っている。
「何をしている」
「ちょっと待ってください、ええと・・・。あった!」
「・・・なんだそれは」
あった、とがポケットから取り出したのはシンプルにラッピングされたクッキー。なぜここで出すのか、ルッチには見当もつかない。
けれど。
それは以前、どこかで見た事がある。似た様なものを。
「ルッチさん、ハッピーバースデー」
そこでようやく思い当たる。自分の誕生日。
ーーーーーーなるほど、去年か。
見覚えがあるラッピングは、去年と似た様なもの。去年はシャンパンだったが。ずいぶんな格下げだ。
「夕食にはケーキもありますよ。カリファと作るんです」
「俺にクッキーか?」
「ハットリと食べられるかなあ、と思いまして。甘さ控えめです」
「・・・ありがとう」
(ルッチさんがお礼の言葉言うなんて!)
給仕の驚異