あれは、昨日の午後。カクが任務に行ってすぐの事で、夕飯よりはまだ時間があった時。スパンダム長官の元へ、いつも通りにコーヒーを持っていった。いつものお菓子(スパンダム長官お気に入りのお菓子だ)(流石おぼっちゃん。舌が肥えてる。プッチの特産品だ!)(そしてあれがないと、機嫌が悪い)が切れていたから、心遣いのつもりで(そしてどうか癇癪を起こさないでください、という願いをこめて)のお手製クッキーをおいておいた。
いつも通りに軽くノックを2回。返事は無い。眠っているか、仕事中か。それでも は失礼します、と言い、(長官は仕事をしていた)彼の机の上に、コーヒーとクッキーをおく。この人はとても(ものすごく!)不器用だから、なるべくどう動いてもコーヒーが零れない位置に。この場所を特定するのはとても難しい。は最近ようやく、スパンダムがどう動くかを予測できるようになってきた。

けれどその前に、不器用な所が改善されればいいのに、と思った事は、何度かあるなんて、長官には言えない。






「おい、!」

不意に呼び止められて、は嫌々ながらに振り向く。なんだろう、多少予測はつくけれど。あの人が拗ねた様子はまるでおおきな子供。
「なんでしょう、スパンダム長官」
「あの菓子がねェじゃねえか」

やっぱり!

「申し訳ありません、あれは」
「持ってこい!」
「・・・・・・今切れていまして」
「俺は今食いたい」
「あれはプッチの特産品です。申し訳ありません、わがままを言わないでください」
「食いたい」

いよいよ蹴りたくなってきた。

甘やかされてきて、わがままで、そして結果的に憎めない長官は引く事を知らない。
「・・・・・・・・今日はそこのクッキーで我慢してください」
「なんだァ、このクッキーは」
「私が作りました。お口に合うかは存じませんが」
「よし、食う」
「・・・」
二つ返事をしたスパンダムを、はまじまじと見てしまった。今の返事がとても信じられない。
(なんて言ったの、この人?)

気に入らない物は、意地でも食べない癖に!

メインのコーヒーは通り越して、クッキーに手を伸ばし、ぼりぼりとクッキーを貪るスパンダムを、はまるで信じられないものを見るかの様に呆然としている。そんなの前で、スパンダムは変わらずにのお手製クッキーを貪り続ける。
「悪くねェ」
口の中にクッキーをいれたまま、スパンダムは感想を漏らす。
「え・・、あ、ありがとうございます・・・」
「あれが無くなったら、次はこれを持ってこい。でも明日はプッチのあの菓子が食いたい」
偉そうに、全てを上から見下ろすような言い方で、スパンダムは机に足を偉そうに乗せて、クッキーをぼりぼり食べて、コーヒーを手探りで探す。はぼうっとしたまま、スパンダムの手元にコーヒーを傍にやった。スパンダムは無言で当たり前の様に、それを飲む。いつもみたいに、熱ィ!という言葉は出ないのを確認して、は軽く一礼をして、部屋から出る。出る直前に聞こえたのは。



「・・・苦ェ」



(そりゃ、甘いものを先に食べたら・・・)
きっと眉間に皺を寄せてちょっと怒って言っているのだろう。はそう思って少し笑ってしまった。スパンダムにはわからないように、扉を閉じてから。









その次の日、という事は今日の午前。
はいつも通りに午後と同じように、長官の元へコーヒーとお菓子(今日はちゃんとプッチの特産品だ)(業者さんがきちんとしいていれおいてくれた)を午前に持っていった。けれど。



「なんでしょうか」
「お前、クッキーは?」
当然、とでも言うように言ってくる長官に、私は自分の耳を疑った。本当に。
「は?すみません、もう一度・・・」
「お前のクッキーは?無ェのか?」
「・・・・・・長官、先日はこのお菓子が食べたいと、おっしゃりませんでしたか?」
「お前のクッキーも食べたくなった。持ってこい」

ああ、もう、ほんとうに蹴りたい!ルッチさんと違う意味でむかつく!

ルッチさんはまだ文句だって言えるし、時と場合によっては嵐脚だってできるけど、この人にはむりだ。長官。
怒鳴ってやりたい衝動を抑えて、私は努めて平気な顔をしてみた。
「もうしわけありません、もうあのクッキーは無くて・・・」
「じゃあ作ってこい」

もうだめ。何かがわたしのなかで『きれた。』バン、と長官のテーブルを叩く。ああ、手が痛い!やるんじゃなかった。けれどやってしまったし、息をすう、と大きく吸っていた。

「いいかげんにしてください、長官!すこしは我慢してください。私にだって仕事はあるんです、だから今はそれで我慢してください。いいですね?わかりましたね?」
「お、おお、わ、かった・・・」

長官がすごくびっくりしているのも、後ろのCPと海兵が呆然しているも私にはわかったけど、私は止められない。

「じゃあ失礼します!」

これみよがしに、扉をバン!と閉めて、私は出て行く。けれど数歩歩いた所で、よろよろと壁に寄りかかる。
(ああ・・・。あとでクッキー作んなきゃ)



またひとつ、仕事が増えたとは頭を痛めた。















(06.07.29)