親愛なるカリファ。
こんにちは、そちらはどうですか、みんな変わりはありませんか。わたしは変わりありません。
この間のわたしの誕生日プレゼント!(2つも!)ほんとうに嬉しかったです。覚えていてくれてありがとう、大切に着ます、つけます。
もう1年なんて、はやいですね。そうそう、この手紙はきちんとプッチから出してるから、なにも問題ないはずです。(でも一応燃やした方がいいかもしれない。)
そろそろみんなと会いたいです。家に居るのに、ホームシックにあったような感じです。それに、まだカリファから剃を教えてもらってません。(だってまさか、そんなすぐに行ってしまうだなんて思っても無かったから!)
クマドリもフクロウもジャブラも、それにあのどうしようもないわがままも、みんな変わりありません。(わがままはわがままのままです)
強いて言うなら、ジャブラはとても優しくなったような気がします。ルッチさんが居ないせいでしょうか。ちなみに、この手紙も、ちょうどジャブラとお買い物に来ている時に出してます。(彼は荷物持ちです)
ルッチさんはどうですか。相変わらずそちらでも傍若無人ですか。
カクはどうですか。あのカラフルな作業着を着て仕事をしているカクがとても気になります。
(このことはルッチさんとカクには黙っててね!絶対怒られるから!)
ブルーノはどうですか。きっと彼は立派にいいマスターをやっているんでしょう?
カリファは心配しなくても大丈夫だってわかってます。きっと素敵で強い秘書なんでしょう。
そろそろ寝ようと思います。明日もわたしは仕事です。それでは、おやすみなさい。
会いたいです、より。
「可愛い」
手紙を読んでいたカリファがとても満足気に微笑んで言った。大切そうに手紙を折り畳み、綺麗な模様が刻まれている封筒にそっと仕舞う。
クローズのプレートが掛けられているブルーノの酒場には、カリファとブルーの以外に誰も居なかった。あと少しでカクとルッチもくるはずだ。カリファの話じゃ、残業で遅くなるとか。
「からか?」
「そうよ、とても可愛い文面だったわ」
紅茶に手を伸ばしながら、手紙の感想を述べる。そう、とても可愛かった。先の誕生日のお礼とか、自分が居ない事を惜しんでくれている事とか。
「へえ」
ブルーノは眼を閉じて、懐古に浸る。
最後のの姿は、いつもの給仕姿で、少し寂しそうに海列車を見送る彼女だった。見送りは彼女一人だった。CP9は誰からも見送られる事は無い。
思えば、いつも笑うの、泣きそうな顔を見たのは、あれが始めてだった気がする。
眼を開ける。目の前には1年前には思ってもいなかった生活。コップを洗ったり、明日の下準備をしたり。血を見る方が珍しい、酒場の店主。
「懐かしいな、もう1年か」
「もう1年!ほんとうに早いわね」
「には何を送ったんだ?」
そういえば1週間ほど前がの誕生日で、そのためにカリファとルッチとカクで何を送るかを提案しあっていたことを思い出していた。買いに行ったのは、カリファらしい。(カクは提案の時点でとても居心地の悪そうな顔をしていたそうだ)(ブルーノはというと、仕入れでプッチへ行っていたため、その話し合いには入れなかった。)(その事に、一抹の寂しさを覚えたのは、秘密である)
「時計と、服よ。あの子、片手で数える程度しか私服を持っていないって言うの。驚いたわ」
女の子なのに、とカリファはごねるように言った。ブルーノは内心で仕方が無いと思う。は給仕であって、CP9ではない。六式が一つ使えたとしても、給仕の域を出ない。(それでも、ブルーノもをCPのなにかにしてやればいいのに、と思った。)(彼女は周りに溶け込むのが上手いから、なかなか良い潜入暗殺者となったと思う)
の仕事はCP9の給仕だ。給仕に私服がなくても、さほど困らない。
けれどまあ、誕生日プレゼントとしてそれを送るのは、悪くない。
「そういえば、の私服はそんなに見た事がなかったな」
「でしょう?もうしばらく彼女を見る事はできないのよ。残念ね」
ほんとうに残念、と言いながら、カリファはミルクティーを一口飲む。こんなにゆっくりとした時を過ごしたのは、久しぶりだった。エニエス・ロビーは色んな意味で喧噪に包まれる事もしばしばだったし、ガレーラカンパニーは言うまでもない。最近、ぼうっとすることなど、なかった。
元来静かな方が好きなのだ。無言の中を流れる心地よい時間が大好きだった。
けれどそれも少しの間だった。カラン、とカウベルの音が来訪者を告げる。
「春と言ってもまだまだ冷えるのう!寒いわい」
言葉とは裏腹に溌剌と元気にカクは言ってみせた。ルッチは多少仕事で疲れているのか(それとも人間関係に疲れているのか)、少し気怠げだった。
「お疲れさま、遅かったわね」
「すまんの、なかなか終わらんくてな。ブルーノ、ビールでもくれんか」
カリファの隣に座りながら、カクは笑って言う。この1年、ルッチは嫌そうだったが(それでも内心はそれほど嫌じゃないのだろう)、カクはとても楽しそうだった。
「俺にもくれ」
「お前ら後できちんと金払えよ」
そう言いながらも、ブルーノはジョッキに生ビールを注ぐ。白と黄色のコントラスト、しゅわしゅわと上がる炭酸。仕事の後のビールは堪らない!
「これじゃこれ、仕事の後はこれに限る!」
そう言うカクを見て、カリファは少し寂しいと言うか、嫌と言うか、変な気分になった。あの可愛らしい弟のようなカクがなんだか急に大人びて(しかも、おじさんのような方向へ)、しまったからだと思う。
「なんじゃ、カリファ。その手紙は」
「からよ」
カリファは差出人を言って、カクはきっと顰め面をするのだろうと思った。(彼はきっと彼女の事が好きなのに、その感情を自分でわかろうとしない。)嫌な顔をするのだろうと、また機嫌が悪くなるのだろうと、ブルーノもルッチでさえも思った。カクはまたビールを飲む。
「ほう、か」
カクが言った言葉はそれだけだった。3人が3人とも肩すかしをくらった気分になって、次第に今までのあの過剰反応は何だったのだと、怒鳴りたくもなり、呆れたくもなった。
「・・・なんじゃ、みんなその顔は。わしだってもう子供じゃないわい」
ふん、とそっぽを向いてぐい、とビールを飲むその姿は。
「「「(立派に子供(でしょ)(だろ)(じゃねえか)・・・)」」」
給仕の手紙
給仕のいないW7組。
(07.04.05)