すまんのう、助けてもらって。
いえ、あの、大丈夫?
わはは、上から落っこちるなんて、初めてじゃ。けど、大丈夫じゃよ。
本当に?
ああ。そうじゃ、すまんが、ガレーラの1番ドッグまで送っていってもらえんかの?
ガレーラまで、ですか?・・・はい、いいですよ。
ありがとう、お嬢さん。




いやまて、落ち着け、わし。(屋根から落ちるという、そんならしくない失態は一度だけに止めておきたい)
ここへ来たときが18だったから、もう3年か。つまりあれは22になる。見えない。(未だに幼く見える)髪を切って、顔つきが少し変わったかもしれない。らしくない失態をした後に、珍しくひどく恐い顔で睨まれて。(わしが何をしたっていうんじゃ!)
いやいや、焦点はそこではない。なぜここに。それに、

(なぜわしはに話かけた?)


素知らぬ顔をして、話かけて、あまつさえドッグまで送ってくれとは。そんな事は馬鹿のやる事だ。(ほれ、あのいつも日の光のように羨ましいほど眩しく笑う、何も知らないあれの様だ)
もう水路はいつも通りに戻っていた。ただ、いつもよりゆらゆらと水面が揺れているだけになった。水面の方をずっと見ていたから、目の前に差し出された白いタオルに気がつきもしなかった。
「あの、」
「ん、ああ、」
何事もなく受け取った後に、しまったと思う。ここでは初対面のはずだ、それをなんてあっさりと。(二度目の失態だ)誰に見られているか分からないのに。それを思ったら身体に滴る水が、なんだか無性に冷たく感じられた。
「大丈夫、ですか」
「ああ、大丈夫じゃよ。すまんのう、乗せてもらって」
「いえ」
そう言ってまた前を向いた、いつもより表情が乏しいを見て、もしかしたら他人のそら似なのではないかと疑った。ああ、そうか、他人のそら似ならありうる。あんまりあれが気にかかるから、そんな事。(いや、まて、気にかかる?)(わしはこっちで充分エンジョイしとる!)(気にかかってなど、)

「カク」

現実逃避を諮っていたら、懐かしい声より少し、不機嫌な声が聞こえた。とげがある声。それはあの島では専らパンダかルッチに向けられる声で、わしには大抵、怯えた声か明るい声か、嬉しそうな声しかかけなかった。(なんでこんなに怒っとるんじゃ!)
「久しぶりね」
「・・・お」
「別に誰も聞いてないよ、政府関係者並みに耳が良くなくちゃ」
わしの言葉をあっさりと遮断して、有無を言わせないその声は確かに3年の月日を感じさせ、にわずかな威圧感をプラスした。(・・・なんでわし、怯えとるんじゃ)
「・・・・・・・・・機嫌悪いのう」
「別に悪くないわ」
「悪いじゃろ」
「悪くないってば」
ああ、こりゃもう意地が入っとるな。
ほんのごくたまに、1年に1度、あるかどうかわからないくらいのルッチとの意地の張り合いに、よくこういう声を出していた事を思い出す。とりあえず、深いため息をついて切り替えを。
「・・・なぜ、ここに居るんじゃ」
「代理なの」
「代理?」
「みんな、暑さにやられちゃって」
天下の政府でも有能なサイファーポールなのにね。と呟いたの声が皮肉のように聞こえたのは自分の勘違いだろうか。(いつも笑ってわしらの世話をするではないように思えた。)
「彼は設計図を渡す気はないの?」
「相当頑固じゃからの。そもそも、あるかどうかもわからん」
「みんなは元気なのね?」
「任務は遂行しとる」
しばらくたっても、からは返事はなかった。(な、なんじゃ、これじゃ前と立場が逆じゃろ!)いやまて、落ち着くんじゃ。なんかからの返事などなくとも、わしにはなんて事ないじゃろ。むしろ必要ないじゃろ。わしはこいつが嫌いなんじゃから。(そういえば、どうして嫌いだったのか、)(そんなものは、すっかり忘れてしまった。)気付かれないように顔を見てみると、少しだけ不機嫌そうな顔をしている。やっぱり機嫌悪いんじゃろうが。
後少しでガレーラにつくと言う頃になって、は口を開いた。
「ここでいい?」
「ああ」
気付けばガレーラまで後ほんの数メートル、というところにヤガラが道につけられていた。イラッとする事に、上手い具合に目立たない場所だった。(無駄に優秀じゃの)
ひょい、とレンガ造りの道に飛び移るとヤガラは少し揺れた。同時に揺らめいた水面がヤガラの首辺りで反射して、綺麗だった。・・・なんでこんな感傷的なんじゃ、わし。乙女か。
嫌になるほど暑い太陽と真っ白なタオルのおかげで、ツナギと帽子は完全に乾いていた。靴はまだ濡れていて気持ち悪かったが、予備に変えれば問題など無い。さて、戻るかの。
「カク」
呼ばれたから後ろを振り向いた。(前だったらそんなもん無視じゃ)

「前よりいい顔してるよ」





(お前にそんな事、言われたくないわい)(嬉しくなんか、)











(最後までわたしの前じゃ、笑ってくれないんだから)










まだ続きます・・・。
(08.05.08)