・・・ウォーターセブンは、何度も来た事があったけど。ドッグの扉を目の前にした事はなくて、思わず開けてしまう口に神経を持っていって、なるべく阿呆な顔にならないようにして(一応、政府の代理人だし、笑われたくないし)、きりりと顔を戻して、ドッグの方へ声をかけた。
違う、かけようとした。かける前に、策の向こう側から声をかけられた。(たくさんの忙しなく働いている職人の一人に)(けっこう、いい年の人かと思えば、こちらを向いた彼は同年代のようだった)
「あれ、あんた・・・」
「あの、」
「カクの彼女!」
「・・・・・・・・は?」
わたしの努力など、皆無。今まで見せた事などないくらいの、阿呆な顔をしていたと思う。その顔を見た金色の髪の男もびっくりしたようで、わたしと同じくらいびっくりした顔をしていた。(実際、わたしの顔はわからないのだけれど、なんとなく、それくらい?)(驚いた顔をした彼はその後すぐにばつの悪そうな表情を浮かべた)
「あー、悪い!違ぇんだっけ?道分かんないって?どこに用事があんだよ、教えてやるから」
「・・・目的地はここです」
社長にお会いしたいのですが、と言うと彼は何者?という怪訝そうな顔をしたので(それはそうだろうなあ、いくらなんでも海賊には見えないだろうし)(流石に)、世界政府の役人です、と名乗った。(そういえば、いつわたしの事を知ったんだろう?)(カクの事を言ってたんだから、やっぱり見られてたのかしら?)










ほんとに!まったく!・・・どれほど嫌われているのだろう。
どれほど世界政府の評価を地に落とせば気が済むのだろう!
この本社の応接室に通されるまで好奇の視線と憎悪(は言い過ぎかも。でも、明らかに歓迎されていない)の視線に晒された。わたしだって、別に世界政府が好きなわけではないし、海軍が全てと思っているわけじゃないけれど、流石にあそこまで嫌われているとちょっと心が痛い。コーギーめ!
「ンマー・・・。それで、御用は何だ?」
「プルトンの設計図をお出しください」
「ない!」
どーん、という効果音が付きそうなくらいきっぱりと、もう拍手を贈ってあげたいほど素晴らしくきっぱりと言い切ったので、わたしは全く声が出なかった。傍に居たカリファ(もちろん、アイスバーグの傍、に)が何一つ苦言を呈さない所を見ると、彼はいつもこんな調子らしい。なるほど、コーギーじゃ敵わない。(かといって、給仕風情のわたしが敵う相手でもないけれど)
「アイスバーグ社長、お頼みしたいのですが」
「ンマー、無いもんは出せない」
「いえ、そちらではなく、船を一隻作っていただきたいのです」
「・・・急だな。政府のガレオン船か?」
「色々と注文付きの、ですが」
「注文?」
「ええ、こちらに書いてあります」
とりあえず受け取ってきた封筒を差し出す。その中身に書いてあるだろう注文書の内容は知らない。知るつもりもない。わたしは諜報機関など知らない。知らなくていい。ただの給仕(いや、今は役人だけど)なのだから。
アイスバーグは封筒から手紙を出して、軽く目を通した。同時に、後ろにいたカリファが顔を顰めた。突然のわたしの来訪に怒っているのか、それとも手紙の内様に腹を立てているのか判別付かないけど、どちらもありそうだったから考えるのを止めた。
「それでは、失礼します」
「ンマー、まだ引き受けるなんて言ってないのだが?」
「そちらに拒否権はありませんので」
「・・・」
「何か問題がありましたら、明日の昼2時までなら対応いたします」
いい逃げが勝ち、という戦法は今まで生きてきた中で身に付けたもの。とりあえず、いい逃げが一番だ。特にこういうやらなかったら向こうの責任になる的な(あ、今の言い方、ちょっとバカっぽかったな)(・・・)時によく効く。
「ンマー、カリファ、送って差し上げろ」
「はい」
「いえ、結構です」
「うちのはちょっと荒っぽいのが多いから、怪我でもされたらこっちが困る。彼女はガレーラの秘書だ。並大抵の男より強いぞ?」
知ってます、きっとあなたが知っている強さの何倍も強いって言う事も知ってます。いや、そうじゃなくて、カリファと一緒に行く方がわたしには綱渡りに思える。むしろ、一人で帰らせて欲しい。(わたしはこっそり見にきただけなんだから!)(ただでさえ、カクに遭遇してしまうというハプニングが起こっているのに)
「こちらへ」
優秀で有能で美人な秘書さんはすでに扉を開けて、口元に笑みを浮かべて待っている。わたしにはそれが、その、地獄の門に見える。ああ、断頭台に向かう海賊の気分!(お願い、カリファ、怒らないで!)








(ああ、!なんで!)(ご、ごめん、カリファ!)










(夜中にここに集合よ?いいわよね?)(わ、わかりました・・・)











(09.03.16)